2007年12月22日土曜日

ブラザーフッド(カン・ジェギュ監督)

「ジンソク、ジンソク!!息をするんだ!!」降り注ぐ砲弾の雨の中、手足をもがれて喚き苦しむ戦友たちを尻目に、彼の兄のジンテは心臓発作を起こした弟の手当てに我が身を省みず、尽力する。冒頭のこのシーンが象徴するように本作は朝鮮戦争下での熱い兄弟愛を描いた作品である。
 『プライベートライアン』や『戦場のピアニスト』は共に第二次世界大戦を扱った作品だが、極めて抑制的に叙事的なタッチでその「悲惨」が撮られているのに対してこの作品は逆に叙情的な演出によって朝鮮戦争の「悔恨」を描こうとする。
 『シュリ』や『JSA』のように本作も「南北分断の悲劇」や「同じ民族同士が争う苦悩」を前面に押し出した作品ではないかと当初感じたがしかし、この映画が伝えようとするのは、もっと普遍的な「戦争の悲愴」であり、「家族の絆」に他ならなかった。
 劇中にはそれらを描く印象的な映像が何回も登場する。
たとえば、迫り来る戦火を逃れるために人々が長年住んだ我が家を捨て、なけなしの財産を背負って疎開する場面だ。それは第二次大戦中ナチスに追われたユダヤ人の難民の姿を連想させた。あるいは駅での兄弟たちの出征シーンは、見送る家族の振る旗が異なるだけで、戦時中の日本をフラッシュバックさせるものであった。
自分にとってとりわけ忘れられないのは、避難する人々や敗走する兵士達を撮った「人の海」のカットである。特に終盤での数十万の中国軍の進撃シーンは圧巻だった。
この「人の海」という存在は戦争に特有の残酷なものだと自分は思う。難民の「人海」の中では親子は簡単に生き別れてしまう。あるいは兵士の「人海」へは容赦なく、相手側から砲弾が打ち込まれる。ここでは完全に「個人の尊厳」など失われているのだ。
戦争の愚かさは戦場だけではなく、こうしたところにもあるということに気づかされた。
物語の核心である「兄弟愛」は過剰なほどの「熱さ」で終始一貫して描かれる。クライマックスの展開に至ってはかなり強引で、リアリティを欠く。だが、この「熱さ」こそ、韓国映画の最大の特徴なのだ。これを支持できるか、できないかが作品の好き嫌いの分水嶺になっているに違いない。けれども、「熱く」ない韓国映画など、単なるハリウッドの二番煎じではないだろうか。
また、本作以外にも『シルミド』など自国の過去を基にした娯楽作品が多いのも韓国独特だ。日本においては「新撰組」のエピソードが時代を超えて人気を保っているが双方ともに「史実と虚構の居心地の良い混沌状況」がうかがえる。「史実の娯楽化」という制作手法は「歴史の記憶」を薄れさせないためには有効な手段の1つかもしれない。
すぐ隣の国で遠くない過去に起きた戦争について、詳しく知ろうと思うきっかけも、この作品は自分に与えてくれた。了

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