2008年1月17日木曜日

世にも奇妙な物語「恐竜はどこへ行ったのか?」(1994/7/7フジテレビ)90点


 地球は大きさの割に随分「軽い」らしい。だから、「実は中身は空洞でそこには地底世界があって、地底人が暮らしている」という“トンデモ説”も唱えられている。[1]あるいは、宇宙には「反物質」の割合が少ないという物理学上の大きな謎が残っている。また、アメリカの、カリフォルニア州とネバダ州の間に位置するデス・バレー国立公園では、何百キロもの石が毎年必ず同じ時期に「勝手に動く」のが知られている。
 このように現在においても科学では説明できない現象が多々存在する。そうしたものの1つに「恐竜絶滅のミステリー」が挙げられる。
 これに関しては「隕石衝突説」が最も有力だが、あくまでも仮説の域を出ていない。このドラマでは、一つの大胆な推論が提示されている。
 物語は、突如発狂して自傷行為を始めて、研究所の地下室に隔離された博士と、彼に接触を試みる若い女性大学院生を中心に進んでいく。この構図はアカデミー作品賞を受賞した『羊たちの沈黙』[2]を連想させる。また、佐野史郎と松下由紀の演技も、レクター博士とクレランス捜査官によく似ていた。彼女は博士の過去を調べだすのだった。
 博士の専攻は「大脳生理学」であった。錯乱前、彼は「恐竜はどこへ行ったのか?」という論文を執筆していた。それは以下のような内容だった。
 「は虫類の脳は、最も原始的本能を司る『R領域』という部分が発達していて、したがって地震や噴火を正確に予知して事前に安全な所へ逃れられる。人間にもこの部分はあるのだが、知性と引き換えに矮小化してしまった。しかし、たとえ危険を予知できたとしても星全体が被災するならば避けようがない。だが、「絶滅した」にしては発掘される恐竜の化石の数は極端に少ないのである。それゆえ、彼らはR領域の力によって異次元にワープしたと考えられる。」
 そして、博士はアマゾンの原生林からヒトのR領域を拡大させる効果を持つ植物を発見し、ここから「R領域拡大薬」を生成する。マウスにそれを注射して水槽に閉じ込めるとマウスはこの世界から消失してしまった。博士はこの実験を見て自分自身にも薬を注射する。すると、元来ヒトはR領域が小さかったために完全には異次元へ行けず、双方の世界の「狭間」に入ったのである。
 彼が異次元にいる恐竜に襲われてもこちらの人間にはそれが見えず、「発狂して自傷している」ようにしか思われない。それで彼は拘禁され隔離された、というのが真相であった。
 博士は彼女に向かって、「深淵を覗くとき深淵もまたこちらを覗いているのだ」というニーチェの言葉を叫ぶ。「真実」を究めた者の恐怖と狂気がそこにはあった。だが彼女もまた、「深淵を覗こうとする」誘惑に負けて、自らの腕にこの薬を注射する。そして博士と同じ「次元の狭間」に陥ったところで本作は幕を閉じる。
 この作品は、サイエンス・フィクション=「SF」の王道を行く傑作だといえる。科学と創作、事実と空想を巧みな割合で調合した、マイケル・クライトン[3]を彷彿とさせる見事な脚本だ。絶妙な虚実皮膜の物語が、自分をいつまでも太古のロマンの余韻に酔わせた。了
[1] と学会『トンデモ本の世界S』太田出版2004参照
[2] ジョナサン・デミ監督『羊たちの沈黙』1990
[3] マイケル・クライトン『ジュラシック・パーク』早川書房1993参照

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