2008年1月29日火曜日

エイリアン(リドリー・スコット監督1979)


モンスター映画は多々あれども本作ほど斬新で強烈なインパクトを与えるものは少ない。
スイス人画家H・R・ギガーの手によるこの怪物「エイリアン」は、トカゲのような長い尻尾とゴキブリのような黒光りした表皮、異常に長い後頭部を持ち、口の中からはもう一つの口が出てくる。そして巨大な体躯で2足歩行をし、容赦なく人間に襲い掛かる獰猛な性格だ。いまや「ET」と対を成す宇宙人として、絶大な人気を博すようになっている。
 しかしストーリーは、従来のホラー映画のセオリーを踏襲している正統派だ。「緊張」と「緩和」、「静寂」と「喧騒」を効果的に織り交ぜ、スリルに溢れた作品へと仕上げている。光や闇を巧みに用いた映像も特徴だ。こうした優れた演出によって、稀代の怪物の魅力をフルに引き出すことに成功した。
 宇宙船の内部という、限定された密室空間の中でどこに潜むか分からないエイリアンと死闘を繰り広げる主人公たち。だが、凶暴なモンスターの前に一人また一人とクルーは犠牲になっていくのだった。
 本作が作られた1979年前後は、ケネディ大統領のアポロ計画、レーガンのSDI構想等、人類による宇宙進出が著しい速度で実現している時期だった。広い銀河系の彼方に道の生物がいるのではないか、と多くの人々が想像を膨らませていたことだろう。けれども大きな大きなこの宇宙には人類の力などでは到底太刀打ちできない怪物も存在しているのかもしれない。人類が核開発に邁進している最中に『ゴジラ』[1]が製作され、自らのエゴで水爆実験を行い、自然を破壊する我々の傲慢さを告発したように、本作も、我が物顔で月や火星に乗り込もうとする人間の驕り高ぶった態度に対する手痛い叱責をしているようにも見えた。
22世紀、資源を目当てに兵士達を月に送り込んだのならきっと「エイリアン」に返り討ちにされることだろう。了
[1] 本多猪四郎監督『ゴジラ』1954

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