2008年1月23日水曜日

スプラッシュ(ロン・ハワード監督1984)90点


 幼い頃の思い出には今からすれば虚実ない交ぜの不可解なものが多い。ラグビーボール位のサイズのハチを見た、人面犬を見た、UFOを見たという話をする人もいる。そしてこの映画の主人公は「僕は人魚を見たんだ!!」と子供のとき真顔で語るのであった。
 しかし、成長するにつれてその確信は徐々に薄らいでいく。多くの人はこうして「迷信」と決別していくのだが、けれども彼はその気持ちをいつまでも捨てきれないままだった。
 彼が大切に守り続けた幼心は、やがて報われることとなる。ある日、大人になった彼の前に突如あの「人魚」が現れたのである。
 「人魚」というファンタジックで非現実的な存在をいかに「リアル」に描くか。この点、本作は非常に上手だったといえる。設定を巨大都市「ニューヨーク」に大海から迷い込んだ人魚、とすることによって「環境の激変に激しく動揺する人魚と、捕獲しようとうごめく政府やメディアから彼女を守るために孤軍奮闘する主人公」のロマンチックなドラマを生み出すことが出来た。
 また、優れた作品には必ずといっていいほど卓抜なアイデアが散見されるが、本作の場合、「人の姿に変身した人魚に水をかけると足が尾ひれに戻ってしまう」という独自の着想が物語を二転三転させるスリリングなものとして見事に機能している。その年度のアカデミー脚本賞にノミネートされたことも納得がいく。
 そして、荒唐無稽な話だけれども、主人公と人魚の軌跡はラブストーリーの王道を踏襲しているので、ベタだが手堅く観客のツボを押さえていた。
 愛し合う二人の前に立ちはだかる障壁が大きければ大きいほど、恋の成就を観る者は全力で応援したくなってしまうのが世の常だ。
 そんな障壁の中でも「愛した人が人間ではない」ケースほど困難で盛り上がるものはないだろう。
それゆえ映画の題材として、本作以外にも名作『ベルリン天使の詩』[1]など「恋愛」プラス「ファンタジー」ものは極めて相性が良いのである。
 鑑賞後、自分は小さな頃に近所の喫茶店で食べたチョコレートパフェの味を思い出したのだった。「童心」をいつまでも無くさないこと、それは世知辛い世の中とほろ苦い人生をもっと甘いものへと変えてくれるはずだ、きっと。了
[1] ヴィム・ヴェンダース監督『ベルリン・天使の詩』1987

0 件のコメント: