2008年1月26日土曜日

ブレードランナー(リドリー・スコット監督1982)95点


 「最高傑作」とまで評されるSF映画の代表であるが現在になって観た場合、率直に述べればインパクトはそれほどではない。
 SFXの点では今の作品の方が遥かに進歩している。ストーリーも他に優れたものは昨今多々ある。だが、それでもなお熱烈な人気を誇り、揺らぐことのない存在感を維持しているのはなぜだろうか。
 その理由は、アクション映画における『ダイハード』、推理小説における松本清張作品のように「古典」としての不動の地位を獲得しているからであろう。『ブレードランナー』の前と後ではSF映画のパラダイムは全く変わってしまった。
 哲学者ホワイトヘッドは、「ヨーロッパ哲学史は全てプラトンの注釈に過ぎない」という有名な言葉を残した。「古典」とはこのようなものなのだ。「ほこりと暗闇に包まれた都市」という独特な近未来の世界観、「自己同一性」というデカルトやヴィトゲンシュタインに通じる深遠な哲学的主題。そして圧倒的な映像センス。『ブレードランナー』を語ることなしに現代のSF映画は語ることができない。
 けれども「古典」は時代とともに解釈のされ方も変容してくる。そして、やがてその作品は換骨奪胎されて、新しい「古典」が登場する。例えば『マトリックス』は、本作の影響を受け続けていたこのジャンルに斬新な風を吹き込んだ。芸術とは「古典」の脱皮の歴史なのである。了

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