2008年1月4日金曜日

蜘蛛女(ピーター・メダック監督1994)85点


  うだつの上がらない一刑事が悪女にそそのかされて自滅への道をひた走る作品である。全体に漂うどうしようもない気だるい雰囲気、主人公を惑わす妖艶な女、砂漠から始まる映像。それは『ホットスポット』をほうふつとさせる。だが、俗悪な模倣作というわけではなく、あえて言うならば「都会版」のリメイク作のように見える。
「回想」という手法によるストーリーテリングは見る側に冷静さとアンニュイさを与えていく。主人公の生き様を突き放して見つめることができる。もともと感情移入しにくい人物のため、こうした手法は功を奏している。
また、主人公がたびたび口にする、人生を達観したようなニヒルなセリフも冴える。
彼曰く「25セントを電話に入れるだけで5万ドルが出てくるトリック」、「愛は支配されるだけ、支配できないから厄介なんだ」
自身が汚職に走る心境や人生経験から学んだことをさらりと吐露するのだ。
他の登場人物もキャラが立っていて作品を盛り上げている。主人公と好対照にとてもパワフルな女殺し屋。彼はこの女を手玉にとっているつもりなのだが、実は逆なのだった。見ている側、特に男性ならばすっかり主人公と同じく「女を利用する男」という構図を物語の終盤まで思い浮かべていくに違いない。しかし、この作品はそこを鋭く突いてどんでん返しを用意していたのだ。
本当にしたたかだったのは、主人公を魅了した女殺し屋の方である。彼女の行動は型破りで主人公は翻弄されるだけだった。自分の命を狙うマフィアのボスを殺しただけでなく、自分の死を偽造するために左の腕を切り落とすことまで躊躇しない。彼女の狂気をはらんだ生命力の前には、寂びれた刑事など相手にならなかった。
この映画の成功はひとえにヒラリー・ヘンキンの優れた脚本によるといえる。刑事と殺し屋役のゲイリー・オールドマン、レナ・オリンの熱演も、それによって花開くことができたのだ。
また、「女性の強さ・怖さ」を前面に描き出す本作はさながら「フェミニズム・ノワール」とでも呼称できる新たなジャンルのパイオニアとも位置づけられよう。了

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