2008年1月7日月曜日

アイ・アム・レジェンド(フランシス・ローレンス監督2007)90点


摩天楼が天高くそびえるニューヨーク。日本のテレビでもお馴染みの光景である。あの9・11のテロの傷もようやく克服し、今再び世界経済の中心地へ返り咲いている。
そのはずなのに、なにかが違う。どこかが変だ。澄んだ青空が広がる昼間にもかかわらず、ビジネスマンがコーヒー片手に闊歩する喧騒も、ホットドックの屋台も、黄色のタクシーもマウンテンバイクで駆け抜けるメッセンジャーの姿も、どこにも無いのである。
NYは完全な無人地帯へ変貌を遂げていた。まるでチェルノブイリ原発事故によって住民たちが強制避難させられ、ゴーストタウンと化したウクライナの都市のようであった。
一体、何が起きたというのか。静寂の中を主人公と犬が乗ったスポーツカーが爆音を上げて駆け抜けていく。突如現れた鹿の群れを彼は猟銃を手に追いかける。だが、狙いを定めているところに次にはライオンの親子が出てきて獲物を横取りしていった。
夜になると主人公は自宅の玄関から裏口まで厳重に施錠を行う。窓にも鉄製の雨戸を下ろす。そして明かりも全て消して、ライフルを握ったまま愛犬とバスタブの中で眠りにつく。外からは獣のような獰猛な雄叫びが一晩中聞こえてくるのだった。
狩り以外に主人公は昼間、誰もいないビデオレンタル店でDVDを借りたり、NY港に停泊した戦艦の上でゴルフの練習をしたりと一見自由気ままに生活している。だが自宅の地下室では白衣に着替え、マウスを使った得体の知れないワクチンの研究を続けている。
本作冒頭で描かれるこのような主人公の現在の暮らしぶりは大変興味深く、観客を飽きさせない。「つかみ」は非常にうまかった。
そしてNYと主人公の謎は、物語が進むに連れて展開される彼の回想シーンで次第に明らかとなっていく。
彼は以前、軍に所属する科学者だった。またその頃巷では「ガンを撲滅するワクチンが開発された」という画期的なニュースが連日流れていた。しかし、数年後NYは突如警察と軍によって封鎖され、あるウイルスに感染していない住民だけが避難を許されたのだった。主人公も家族を軍用ヘリに乗せて急いで逃した。
転じて現在のNY。主人公が狩りの最中、廃墟のビルに入った愛犬を探しに行くと、闇の中からゾンビのような化け物が彼に襲い掛かってきた。こうして物語の「謎」の一端が遂に露わになる。ガン撲滅ワクチンは、凶暴なウイルスに変異して多くの人類の命を奪い、あるいはゾンビ化させて世界を滅ぼしたのである。特殊な免疫を持ち感染を免れた主人公は人類を救うために、たった一人大都会でサバイバル生活をしながらワクチンの研究に奔走していたのだということが判明する。
しかし、本作では「ナイトウォーカー」と呼ばれるゾンビが登場して以降、緊張感あるサスペンス風の雰囲気は一変、「バイオハザード」と似た激しいホラーアクションとなる。
毎度お馴染みのハリウッド製銃撃戦・乱闘映像はやや食傷気味に感じて興ざめだった。
しかし、『アルマゲドン』の主人公のように自己を犠牲にして最後に人類を救う展開はやはり感動的だった。なにより、毎夜飢えたゾンビが徘徊する街で諦めずにウイルスを無効化するワクチンの製造に日々明け暮れる姿は、「明日世界が滅ぶとしても私はリンゴの種をまくだろう」というルターの言葉を連想させ、昨今冷笑されてばかりの「努力と希望」の大切さを私たちに感じさせた。実際に大規模な人払いをして撮影した「誰もいないNY」の圧巻の映像だけでも本作には一見の価値があるだろう。了

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