2008年1月4日金曜日

ホット・スポット(デニス・ホッパー監督1990)95点


 砂漠に囲まれた小さな街に流れてきた1人のダンディーな男。彼はそこで車のセールスの仕事に就き、美しい若い娘と出会う。彼は端正なルックスだけでなく、謎めいたキャラクターを持ち、たちまち彼女だけでなく、社長の妻まで惹きつけていくようになる。
 この「妻」というのがまだ30代の若さでこちらもとても美しい。そして主人公は彼女達と二股状態になってしまい、それを知った人妻はどうにか彼を自分のものにしようと画策する。
娘にゴロツキからゆすられているのを打ち明けられた主人公はそいつを殴り倒すのだが、密かに計画・実行した銀行強盗の件をなぜか知られていて、逆に脅される。そいつは娘だけでなく自分にまで付け込んできたので結局撃ち殺してしまったのだった。
そして娘と二人でカリフォルニアへ逃げようとするが執念深い人妻は、社長を殺して二人を呼び出して、彼を脅して娘から略奪する。こうして、彼女からすれば最高に幸せな結末を迎えてこの物語は幕を閉じる。
 自分はこの作品を民放で見たのだが、そのため最も印象的だったのは「吹き替え」である。いつもは自分も多くの人と同じように「字幕派」なのだが、今回ばかりは吹き替えで見る方を絶対にお勧めする。
 なぜなら、後日改めて本作品の字幕版をビデオレンタル店で借りて鑑賞したのだが、全く雰囲気が違っていたからだ。吹き替え版の方が遥かに扇情的でセクシーでスタイリッシュな作品に仕上がっていた。
 字幕版だと俳優たちの地の声を聞けるが、断然声優の方が妖艶で魅力的だったのである。主役の男の低い声、娘の若々しい声、人妻の色気の溢れる声、そしてそれぞれの喋り方まで、声優たちは見事な演技を披瀝している。
 確かに声優と俳優では大きな違いが存在するわけであり比較するのは誤りかもしれない。声優は「声だけ」の芝居なのでどうしても全てを声で表現しようとするため、誇張したり派手に演じる傾向は否めない。仕草やたたずまいなど非言語的演技もできない。
 映画ファンが吹き替えに批判的なのもこの点にあるはずだ。特にアニメの盛んな我が国では、ルパンとダーティーハリーを担当する声優が同じであるようにアニメの声優が映画の吹き替えも掛け持ちしている。
 だから「そんなに分かりやすくハキハキと喋らないぞこのスターは!」などと私たちは反発を覚えてしまう。
 ただ、本作のように登場するキャラの人物造形がわりと類型的な場合は、たとえ実写映画であろうと、声優によるややオーバーな演技が見事に噛み合って作品をさらに魅力的なものにするのである。
 「ダンディーな中年男」、「清楚で可憐な若い女」、「魔性の人妻」。いずれもとても分かりやすい。だから、ステレオタイプな声の演技でも見る側は違和感を抱きにくい。
 次に言及すべき本作の見どころは主演の二人の女の好対照を成す美貌である。娘を演じるジェニファー・コネリーの水着シーンは中でも本作の見せ場だ。豊かな胸と細く長い肢体が露わにされ、非の打ち所のない素晴らしいプロポーションを見せ付ける。
 一方、人妻役のバージニア・マドセンも全く引けを取らない。大きな美しい瞳にまばゆいブロンドヘア。真っ赤なルージュも白い肌によく映える。
 少女と熟女という二人の美女の中から主人公は少女を選択したのだった。だが、人妻は諦めない。老練な女ならではの周到な策を張り巡らしてついには主人公の略奪に成功した。
 どんな世界にも必ず若手とベテランの「世代闘争」が存在する。恋愛に関してもそれは変わらない。まるで雑誌『二キータ』[1]を地で行くような年上女の「小娘に勝つ!!」豊富なキャリアとテクニックを人妻は見せ付ける。残念ながらこの雑誌は今年3月号で休刊するらしいが。
 この映画はだから、『ニキータ』世代の女性からすればとても痛快で、エールを送られている作品に映るだろう。したがって、女性が見たなら男性とは別の面白さがあるのだ。
 人妻は「私は欲しいものは必ず手に入れてきたのよ」と主人公に向かって言い放つ。そこからは、砂漠の真ん中に住んでいようが若い美女が現れようが年増になろうが、臆することなく貪欲に生きようとする力強さ、ポジティブさを感じさせて止まない。
 映画はしばしば、ストーリーよりも役者自身の美しさにばかり注目してしまう場合がある。映画が役者に食われてしまうケースだ。だがこの作品は監督である鬼才デニス・ホッパーの手腕によって、役者の美貌自体を物語の側に完璧に組み込むことに成功している。脚本も二転三転し、最後まで飽きさせない。
 舞台設定も目の付け所が良い。「流れ者」とか「砂漠の中の街」などはアメリカならではだ。どこかからふらっと来た者が何かをしでかしてまたよそへと行く。広大な国土を持つかの国が得意とするストーリーだ。
 「プレイボーイの風来坊」とそれを愛した女たち。どこまでも自由で奔放な彼らの生き様に、小さな島国のとても狭い街に住む自分はつくづく憧れるのだった。了
[1] 『ニキータ』主婦と生活社2004/09創刊

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