2008年1月9日水曜日

トレスパス(ウォルター・ヒル監督1992)85点


  消防士の二人が火事の現場から偶然、宝の地図を入手する。そして、この地図に従って廃墟の工場で金塊探しを始めたら不運にもギャングの殺人を目撃してしまい、彼らと命がけの対決をする羽目になる。これが本作の粗筋だ。
 ギャングVS一般人、という図式はとても惹き付けるものがある。例えば『ジャッジメントナイト』[1]に自分はとても興奮した。
 なぜこうしたストーリーが盛り上がるのかといえば、「逃げるために仕方なく戦う」という逆説的で現実的な状況がそこに広がるからだろう。
 本作の主人公もギャングから逃げ切りながら、ついでに金塊も手に入れようと必死であがく。命の危険に晒されながらも欲深さを捨てきれない彼の姿は、滑稽だが応援したくなってしまう。
 演出面において感心したのが、ギャングの一人がビデオをいつも手に持って終始辺りを撮影している、という形で、しばしば映像がモノクロのVTRに変わり、小刻みに動く点だ。「ハンドカメラ」というテクニックが効果的に使われた作品としては、古くは『仁義なき戦い』[2]、現在なら『プライベートライアン』[3]、『ブレアウィッチプロジェクト』[4]が挙げられる。
 もちろん、これら傑作と同列には論じられないが本作の場合、この技法によって臨場感やスピード感を高めることに成功している。それに、カメラに向かってビシッとキメた黒人が早口でまくし立てるのは、スタイリッシュなラッパーのPVのようで非常に格好良かった。この作品は、主演の二人の白人よりも敵役の黒人達の方が存在感があり、魅力的だった。主役が脇役に食われていたようだ。
 最後にはギャングは仲間割れを起こして自滅し、主人公の一人も非業の死を遂げる。生き残ったもう一人は、ほうほうの体で逃げ出した。結局、老人だけが漁夫の利を得て金塊をまるまる独り占めにしたのだった。
 このような、ひねったシニカルなラストはハリウッドのB級アクションらしくないように感じる。この作品が気に入った人には船戸与一の『夜のオデッセイア』[5]がお勧めだ。了
[1] スティーブン・ホプキンス監督『ジャッジメントナイト』1993
[2] 深作欣二監督『仁義なき戦い』1973
[3] スティーブン・スピルバーグ監督『プライベート・ライアン』1998
[4]エドゥアルド・サンチェス、ダニエル・マイリック監督『ブレアウィッチプロジェクト』 1999
[5] 船戸与一『夜のオデッセイア』徳間書店1985

1 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

この映画おもしろかったなあ