2008年1月1日火曜日

太陽を盗んだ男(長谷川和彦監督1979)95点


はっきり言って面白かった。古い作品にもかかわらず昨今のハリウッドものにさえ引けを取らぬクオリティである。
まず特筆すべきはテンポの良さだ。冗長な演出を排して、細かなカット割りと盛り上げる音楽でフィルムを造り上げている。
なぜ主人公はプルトニウムを原子力施設から盗み出して原爆を造って国を脅迫したのか。その動機をこの映画は一切語らない。それは傑作脱獄劇『アルカトラズからの脱出』[1]と似る。「主人公の内省描写をほとんどしない」という手法は見る側へ主人公に対する好き嫌いの気持ちや過度な感情移入をしづらくさせ、主人公の「行動」のみに注目を集中させる。
次いで評価できるのは主人公の描き方だ。セクシーでたくましいイメージを持たせて、とても魅力的な人物に仕上げている。序盤の1人でトレーニングに耽るシーンは『タクシードライバー』[2]のデニーロを彷彿とさせる。あるいは単身でプルトニウム強奪に乗り込む場面は大藪春彦の小説に登場する主役を連想させる。
また、表の顔は平凡な理科教師である点も「単なる一市民が途方もない大事件を仕出かす」という大きな痛快感を私たちに与えてくれる。だが、彼の正体は「頭脳明晰、身体屈強」な完全無欠のクールな男なのだ。
本作は制作時期を鑑みると、ハードボイルド作家・大藪春彦の影響をかなり受けているように思う。敵役であるタフな刑事が終盤、逆探知で主人公の居場所を突き止め、彼を追い詰めていくところはスリリングであり、大藪小説の醍醐味を味わっているようだ。その後の彼らのカーチェイス、クライマックスでの決闘も大迫力であった。きっと当時の観客は拍手喝采を送ったことだろう。
大勢のエキストラ、市街地でのロケ、妖艶なヒロインの登場などハリウッド大作の技法を取り入れながら国会議事堂や皇居での撮影といった日本独自のテイストも欠かさず織り交ぜる。制作から20年以上経過した現在でもいまだ本作は色あせない。ただ、残念ながら公開当初は興行面では成功しなかったという。それは「ヒット作がすなわち傑作である」という図式が虚構であることを改めて私たちに知らしめている。了
[1] ドン・シーゲル監督『アルカトラズからの脱出』1979公開
[2]マーティン・スコセッシ監督 『タクシードライバー』1976公開

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