2008年1月2日水曜日

スパルタカス(スタンリー・キューブリック監督1960)90点


  本作は紀元前古代ローマ帝国において後世に名を残す反乱を起こしたスパルタカスを描いた一大叙情詩である。
奴隷という最底辺の身分で生きることを強いられながら、彼は屈強な戦士であった。劣悪な環境に我慢できず、ついに彼は仲間と共に剣闘士養成所から脱走を果たし、討伐に来たローマ軍をたやすく粉砕する。そして次々と仲間を増やして大軍勢を築き上げ、ローマ帝国を震撼させるに至る。
この映画でも描かれるように、積年の恨みと怒りを爆発させた奴隷達の強さは尋常ではなく、イタリア各地でローマ軍を蹴散らして回った。しかし、ローマ帝国の威信をかけた巨大な軍団が最終的には送り込まれ、祖国に帰って自由を手に入れることなく彼らは殲滅されてしまった。
「自由」や「解放」の理念は圧倒的な現実の物量の前に無惨にも踏みにじられたのだ。
だが終盤での、捕虜となった奴隷達が皆「私がスパルタカスだ」と名乗り出て主人公の代わりに自身が磔にされようとする場面はあまりに感動的であった。奴隷にとって彼はまさに英雄であり、希望に他ならなかった。
世界史の教科書を開くと世界各地で様々な「反乱」と「革命」が繰り返されていることがよく分かる。前者と後者の違いは端的に言えば時の体制の側の「勝利」と「敗北」だ。スパルタカスの場合、結局鎮圧されたために「反乱」と名づけれ、歴史に伝えられている。しかし、この出来事は決して無意味なことではなかった。史実によればこの後、ローマは奴隷の待遇を改善したという。
また、約2000年の時を隔ててフランスでは人民の革命によって王政が打破され、「自由」が花開くことになった。こうして見ると、スパルタカスの遺志が長い長いバトンリレーで連綿と人々に受け継がれていたように思える。一人ひとりの人間がこの世界に存在する期間はわずか100年にも満たない。だが、その「精神」は他の人間の中でいつまでも生き続けることが出来る。そしてそれはやがて「自由の精神史」のような壮大なクロニクルを紡いでいく。自分はここに、どこまでも広がる果てしないロマンを感じてやまない。了

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