2008年1月15日火曜日
キッズ・リターン(北野武監督1996)95点
自身のバイク事故の後作られた本作は、北野映画の中で極めて異彩を放っている。他の作品と比べ、大きな違いがいくつもあるのだ。
主役が大人でなく高校生である点、銃と暴力と死を前面に出していない点等である。本作以前の『その男、凶暴につき』、『ソナチネ』、以降の『HANABI』、『ブラザーズ』には共通してヤクザと刑事、流血とバイオレンスが登場する。基調となる世界観がとても殺伐としているのだ。それゆえ、『HANABI』はベネチア映画祭を受賞したのだが、自分はどうしても良いとは感じられなかった。反面、本作からは多大な感銘を与えられたのである。
「北野武の青春映画」と聞けば、決してハッピーエンドでなく、従来の定石を踏んでいないに違いないと大よその予想がつく。彼はやはり本作においても、他の作品同様に独自の個性的手法を駆使していた。
それは一つは、長いお笑い芸人時代に培われた独特の「間のセンス」の活用、あるいは俳優陣の極めて抑制された演技、時たま聴こえる静かなBGM、そして、「北野ブルー」と呼ばれて有名になった、全体に薄暗い映像のことである。こうした「北野節」によって、全く過去にはなかったような斬新な青春映画が完成した。
「青春」と言われて想像する色彩はきっと多くの人は、情熱とエネルギーを連想させる「赤」だと思う。だが、本作の場合、「陰鬱」を想起させる「ブルー」が物語を染め上げている。
若いにもかかわらず、何の目標も打ち込むものも見つけられず、ただダラダラと毎日を過ごすだけの主人公達。そんな彼らにもたらされるほんの一瞬の栄光と悲劇。そこには、太陽がまぶしく照らす「青春」などどこにも無かった。
「映し出される校庭が、いつでも無人である」という演出がこうした本作の世界観を象徴している。
そして、カメラが捉える空がいつでも真っ青に澄んでいたことも、極めて印象的であった。「北野の空はいつも青い」、これもまた、彼の映像の特徴である。
本作は、主人公2人が誰もいない校庭で、自転車で二人乗りしながら、「俺ら終わっちゃったのかな?」、「バカ野郎!始まっちゃいねえよ」と言葉を交わすシーンで幕を閉じる。それは、降り懸かった苦い挫折を、彼ら自身が力強く乗り越えて未来へと歩みだそうとしていることを示唆していた。
二人の頭上に広がる雲ひとつ無い青空には、夢のかけらが星になって輝いていたように見えた。了
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