2008年1月27日日曜日

愚か者/傷だらけの天使(阪本順次監督1998)


 主役である真木蔵人の「イカれた」演技が一番印象的であった。この彼の「怪演」ぶりを本作はしかし、活かしきれていなかったというのが正直な感想である。
 コミカルタッチが基調となっているのだが、そのノリが随分空回りしていた。笑いはとても予定調和で、見る側に先読みされてしまい、興ざめであった。また、この基調も鈴木一真扮する相方がむやみに振り回すナイフがかき乱してしまっていた。小道具にナイフを重用したのも失敗だし、その必然性もよく分からない。
また、なぜいきなり彼が警官から銃を奪う必要があったのかも疑問だ。全体的に本作のストーリーは散逸で行き当たりばったりなのである。否、これこそが本作のストーリーなのだというのなら、それは「J文学」とそっくりだ。どうでもよいような日常の出来事をしまりなくダラダラと書き綴るあのスタイルは自分には何の魅力も感じさせない。本作はとりあえず「映画」という技法を採っているので、J文学とはもちろん全く同じというわけではなくところどころに「非日常」を挿入せねばならなかった。が、その目論見はまんまと失敗し、大して盛り上がりもしなかったのである。
「邦画」というものは日本人にとって「日常」の地平の延長上にある。「同じ言葉を話す同じ外見の人々」から構成されているのだから。そのため、非日常を描くアクションやホラーのジャンルといえども洋画と比べればそのインパクトは弱まらざるを得ない。それならば、本作のような「J文学もどき」の映画はそれこそ、「銀幕を使った動く日記」になってしまう。無論、小津安二郎の『秋刀魚の味』の例のように、本国人には面白く思えない邦画も海外で上映したならば、向こうの人にとってはこちらの「日常」が「非日常」であるため、高い評価を受けることもあろう。
お金を払ってまでスクリーンに「日常」を観たい人などいない。それは世界共通である。了

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