2008年1月19日土曜日

ゲッタウェイ(サム・ペキンパー監督1972)


 紛れも無く、サム・ペキンパー監督の代表傑作である。彼の作品の中で最も興行的な成功を収めた。現在になって見ても飽きることが無い。全編どこにもソツがなく、一点のぬかりもない。ワイルドでスタイリッシュ、クールでシャープなハードボイルド作品だ。
 本作では、他のペキンパー作のようにアクションシーンが素晴らしいことは無論、それ以外にも所々に織り交ぜられる挿話の妙が光っている。
 銀行強盗を働いた主人公夫婦を追うメキシカン・マフィアの男と、巻き込まれた獣医夫婦のエピソード、駅での、大金の入った主人公のバッグが盗まれる場面、ゴミ収集車の中に隠れて彼らが警官から逃げるくだり。
 この作品はジム・トンプソンの原作[1]を映像化したものである。小説には、カットにカットを重ねてテンポを第一とする映画と異なり、「脱線と閑話休題」が存在する。ここにおいて、作者は私見やうん蓄を披瀝して物語に奥行きを与えていく。
 たとえば本作においては、駅のバーで主人公に隣の兵士がモルモン教について語りだすシーンがあった。本筋とは関係ないのだが、知的好奇心をそそり、非常に興味深かった。
 ペキンパー監督は、原作のエピソードの中でもとりわけ獣医夫妻の話を重視していたようである。丹念かつセンセーショナルに夫婦とマフィアの様子を活写していた。このパートは、「女は真面目ぶったインテリ野郎より野生的なワルの方が好きなんだ」とでも言いたげな「マッチョ賛歌」の荒々しい寓話に見えた。
 そして、原作の部分をこのように活かしつつ、ガン・アクションというペキンパー映像の真骨頂も存分に発揮されている。銀行襲撃シーン、ラストの銃撃戦は素晴らしい迫力で名場面として後世まで記憶されている。
 最後には、何度も衝突を繰り返してお互いに傷つきながらも、主人公夫婦は一緒に国境を越えたのだった。
 「アンチ・ヒーロー」に幸せな結末が待つ。勧善懲悪ではないニヒルな世界も、ペキンパーだと嫌いになれない。了
[1] ジム・トンプソン『ゲッタウェイ』角川書店1994

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