2008年1月25日金曜日
僕を愛したふたつの国/ヨーロッパ ヨーロッパ(アニエスカ・ホランド監督1990)80点
ユダヤ人である主人公・ソロモンは第二次大戦中、ナチスに追われ一家でドイツからポーランドへ疎開する。しかし、姉はヒトラーユーゲントの手で殺害される。そして家族はバラバラとなり、彼はその後コムソモール(共産主義教育舎)に逃げ込んだのだった。
そこでは徹底的なスターリン賛美と宗教批判教育が実施されていた。「宗教は科学的でない」、「共産主義は科学的に正しい」と教師たちは子どもたちへ熱心に説いて回る。
だが、遂に自身もナチスに捕えられてしまい、命は助かったものの、今度は通訳としてドイツ軍で働くことになるのだった。皮肉にもこの仕事で彼は出世して、将来のエリートのために造られたヒトラーユーゲント育成学校へと送られていく。ここでクラスメートのレニという少女にやがて淡い恋をするようになる。だが、ユダヤ人である主人公は正体を知られれば一貫の終わりのため、どうしても関係を深めることが出来ずに苦悶するばかりだった。そうこうしているうちに彼女は他の生徒に奪われて妊娠する。だから主人公はひどく傷心したのだった。
だが、それでも彼はその後も戦禍の中を全速力で駆け抜けていった。全ては「生き残る」というただ一つの目的を果たすためである。
このように主人公の青春は、戦争の時代、「全体主義」と「共産主義」という左右双方のイデオロギーに翻弄されるばかりだった。どちらの陣営も主人公と同じ純粋無垢な少年・少女たちを時の権力者の思想に染め上げて支配体制を磐石なものにしようと必死だったこともまた、本作からはよく見て取れる。
そのため彼は「ファシスト」と「コミュニスト」という2つの分裂した自我を持たざるを得なくなってしまった。けれどもイデオロギーは所詮彼にとっては「生き残る」ための方便にしか過ぎなかったことも理解できる。まだ幼い主人公であったが、しかしどんな大人たちよりもしたたかで力強い「生きる意志」を持っていたといえよう。
驚くべきことにこのストーリーは紛れもない実話なのである。ユダヤ人少年・ソロモンは実在の人物なのだ。したがって、この真実の物語は観る者皆に「どんな逆境であろうと決して絶望する必要などない」と熱く語りかけているように感じた。この映画は美しく高らかな、奇跡の生命賛歌に他ならないのだ。了
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