2008年1月10日木曜日

ロボコップ(ポール・バーホベン監督1987)95点 


成人した現在見ても、十分鑑賞に堪え得る作品だ。味わいが深くなったようにも思う。
「凶悪犯罪者集団によって惨殺された警官がロボとなって蘇り悪に立ち向う」という筋立ては、一見日曜日の朝に放送している『ジバン』[1]等のヒーローものを思い浮かべる。しかし、かつてファンタジー・サイコスリラーの傑作に贈られるアボリアッツ映画祭賞を受賞したバーホーベン監督の手にかかれば一癖も二癖もある作品へと仕上がるのだ。最近でも『スターシップトルーパーズ』[2]や『インビジブル』[3]など、SFアクションや透明人間など、子供が好きそうな題材を映画化している。
だが、この監督は、ココアのメーカーと同じ名前をしているのに実は「子供に見せたらいけない」PG12作品の名手なのだ。ふたを開ければ、血みどころの残虐描写が次から次へと展開される。彼はつくづくスプラッターが大好きのようだ。どの作品も、ストーリーとはほとんど無関係な、「暴力のための暴力」といえるシーンが多々見受けられる。
たとえば本作においては「マーフィー警官の惨殺」、「戦闘ロボED209による丸腰の人間の虐殺」、「毒液でどろどろに溶けた敵を車で跳ね飛ばす」等のシーンである。生理的嫌悪感を催すこうした映像は『悪魔のいけにえ』[4]を連想した。「観客を不快にさせる」ことを両作は共通して重視する。
その他に本作で印象に残るのは所々で流れるTVニュースとCMだ。解雇に反対するストライキやデモの報道、防犯グッズの宣伝など、現実の世相を反映するようなものばかりだった。
そして、この映画を単なる低予算B級バイオレンス作にとどめないのは、よく練られた舞台設定によるだろう。
近未来のデトロイトは、警察も市役所も全て、街全体がオムニ社という巨大企業の傘下となっていた。治安維持まで同社はビジネスとして請け負い、そのために強力なパワーを持った警官を作ろうとロボコップ計画を進めていたのである。この実験に、殺された主人公が選ばれた。
営利を第一とする企業の性格上、犯罪行為をしようとも同社重役に対してはロボコップは実力行使することが許されていなかった。また、出世競争に勝つため、彼を開発したグループとは別の派閥も「ED209」という犯罪取締り用武装ロボを製造していた。終盤、重役の不正を知り摘発に乗り出したロボコップの前には、このロボが立ちはだかる。
荒唐無稽に感じられるストーリーかもしれない。だが、実際現在のアメリカでは刑務所を民営化し企業が運営したり、イラク戦争においても民間軍事会社が米軍と協力して戦っている。高級住宅街も、そこの金持ちに雇われた警備会社のガードマンが常に厳重なパトロールを行っている。従って決して、「来るはずのない未来」の話とは言えないのだ。
このように、「企業に侵食される社会」というアメリカの深刻な問題をこの映画は「近未来のロボット警官」を用いて寓話仕立てで告発しているようにも見える。
SF+スプラッター+社会派、この監督はやはり一筋縄ではいかず、目が離せない。了
[1] 八手三郎原作『機動刑事ジバン』1989~1990テレビ朝日系列
[2] ポール・バーホーベン監督『スターシップトゥルーパーズ』1997
[3]同『インビジブル』2000
[4] トビー・フーパー監督『悪魔のいけにえ』1974

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