2008年2月9日土曜日

バウンド(アンディ&ラリー・ウォシャウスキー監督1996)


「作家は処女作に向けて結実する」と言われる。この作品についてもこの言葉は当てはまっていた。脚本・監督を務めたウォシャウスキー兄弟は、下積み時代に育んだ才能を見事に本作で開花させることができた。どこまでもクールでスリリングな、刺激に富んだ犯罪映画がここに誕生した。
評価すべき点はいくつもあるが、とりわけ「同性愛」という重く暗いテーマを逆手にとって、アクティブでポジティブに描き出した点が巧みだった。そこを柱として、アカデミー脚本賞に輝いた、似たテーマの名作『クライング・ゲーム』[1]をほうふつとさせるようなヒネリの効いた脚本で、物語は進んでいく。主人公が殺し屋とマフィアの愛人であるという設定が、二人をタフでクールなカップルにして、「世間の目を忍ばざるを得ないレズビアン」という既存のネガティブなイメージを蹴散らしている。そして、愛し合う強くてしぶとい女二人が、百戦錬磨の悪人どもを出し抜いて勝利するという展開は、本当に痛快であった。
また、映像センスも非常に良い。彼ら兄弟は、日本のアニメから多大なインスパイアを受けていることを常々公言している。メガヒットした次回作『マトリックス』[2]を観ればその事実は容易に分かるが、全く別ジャンルでありCGアクションなどない本作においてもそれは見て取れるのだ。
アニメやコミックと近似した、キャラクターの顔や眼のズームアップ・仕草、カメラアングル等の撮影手法がここでは用いられている。これらは個性的で独創的なシーンを生み出すことに貢献した。
他にも、小道具の「白ペンキ」は憎い位に周到に計算されて登場し、この映画を象徴するアーティスティックで美しい映像を作っていた。
物語の鍵となる盗んだ大金を、主人公はマンションの自室にある白ペンキで満たしたポリバケツの中に隠していた。それが持ち主のマフィアに発覚してしまい、彼がこのバケツの中身をぶちまける。綺麗に輝いた大理石の床一面に真っ白なペンキが広がっていく。そして、次に彼が主人公に射殺されて倒れこみ、白いペンキの海の中に真っ赤な血が流れ込んでいく。これら一連の場面をカメラは終始真上から映すのだった。全てが完璧に狙いすましたカットだといえる。
あるいは、舞台となるマンションの部屋、自動車、衣装、拳銃など、画面に現れるありとあらゆる「モノ」が何もかも異常なまでにピカピカに磨きこまれていたことも指摘しておきたい。アニメの世界では服のシワ、窓の曇り、壁のシミといった実際の世界に存在する「汚れ」が消えている。本作もこうすることによってアニメ的なクリーンでイノセントなビジュアルを獲得することに成功した。
このように本作は映像も脚本も、「スタイリッシュ」の一言である。底なしにカッコ良くて、美しい。同性愛も犯罪も、現実における「タブー」は「アート」へと昇華していた。まさに現代フィルムノワールの第一級傑作だと言えるだろう。了
[1] ニール・ジョーダン監督『クライング・ゲーム』1992
[2] アンディ&ラリー・ウォシャウスキー監督『マトリックス』1999

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