2008年2月3日日曜日

日本社会を不幸にするエコロジー幻想(武田邦彦著 青春出版社2001)


 美名の下にある存在は批判の目からかくまわれている。だから逆に実際は批判し出せばキリがない程、矛盾と欺瞞に溢れているのかもしれない。そこを舌鋒鋭く暴き立てるのは非常に有意義な仕事だろう。本書は昨今話題の「エコロジー」を俎上に乗せた一作である。
 目からウロコだったのは「省エネは増エネ」という指摘の部分だ。客観的に試算してみると省エネ製品を買うよりも現在使っているものを長く使う方がずっと資源の節約になるという。「買わない、無駄使いしない」という消極的な姿勢こそ実は最もポジティブなエコロジー活動となるのである。しかし、こうした認識は国民だけでなく政府にも欠けているらしく先日「グリーン購入法」なる法律まで制定されてしまった。結局、財界に配慮して経済を第一とする日本政府には「買うな」と消費者に呼びかける勇気はなかったのだろう。
 あるいはリサイクルにおいても「資源利用の効率性」という観点から考えると、ペットボトルやアルミ缶のリサイクルは有害無益でしかないと著者はデータを示して喝破するのである。「リサイクル」それ自体の目的化という主客転倒現象の蔓延を本書は危惧し、エコブームが逆に環境破壊を助長しているという持論を展開していく。環境保護運動に対しても「部分的には正しいが全体としては方向が間違っている」と論難する。
 本書はこのように着眼点は非常に独創的で、読み物として大きな魅力を持つ。けれどもはっきり言えば手放しで賞賛できる作品ではない。この本は「環境保護活動=無意味・無駄」という誤解と偏見を巷間に流布することに一役買っているからだ。
振り返ってみても、自然や資源や暮らしを守ろうとする世論が高まるたびに、この国では必ず既得権益の勢力からカウンター攻撃が繰り返されてきた。原子力発電への反対の声が高まれば東京電力や政府はマスメディアを利用しての派手な「原発安全キャンペーン」を行い、添加物の危険性を告発する『買ってはいけない』[1]がベストセラーになれば『「買ってはいけない」は買ってはいけない』[2]、『「買ってはいけない」は嘘である』[3]が急遽発売され、ダイオキシンの危険性が認識され始めれば「そんなことはない」とする数々の報道がなされ、最近では京都議定書によって地球温暖化問題が大きな社会的関心事となれば、『暴走する「地球温暖化」論』[4]のごとき温暖化そのものを否定するようなものが出版された。アメリカでも、専門家の間では地球温暖化は事実として認識されているにもかかわらず、世間では石油業界等のキャンペーンのために否定論・懐疑論が横行しているという。また、著者は前掲の『暴走する…』の執筆者の一人である。同氏は他にも『環境問題はなぜウソがまかり通るか』[5]シリーズを著している。
本書刊行後、著者はすっかり「反エコ派」論壇の寵児となってしまったように見える。しかし、エコロジーという目的そのものの重要性は社会で広範に共有され、否定することはできないのである。したがって、この分野で批判すべき所があるとするならそれは、エコロジーを実現するための「手段と方法」に関してであろう。それゆえ著者のスタンスは、本書の言葉を借りれば「部分的には正しいが、全体的には間違っている」と言えよう。了
[1] 『週刊金曜日』編集部『買ってはいけない』金曜日2005
[2]夏目書房編集部『「買ってはいけない」は買ってはいけない』夏目書房1999
[3] 日垣隆『「買ってはいけない」は嘘である』文芸春秋1999
[4] 武田邦彦他『暴走する「地球温暖化」論』文芸春秋2007
[5] 武田邦彦『環境問題はなぜウソがまかり通るか』洋泉社2007

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