2008年4月17日木曜日
クローバーフィールド/HAKAISYA(マット・リーブス監督2008)95点
友人のパーティーを撮影していた主人公が大きな爆発を聞いて路上に駆け出し、ハンディカムを向けた先には、轟音を上げて吹き飛んでくる自由の女神の巨大な頭部があった。近くで見ると顔は爪のようなものでえぐられて、ひどく傷ついていた。その直後、地鳴りと共に周囲のビルが粉々に破壊されていった。人々はただ、瓦礫と煙の中を叫びながら逃げ惑うしか術はなかった。一体、今ニューヨークに何が起きているというのだろうか。
本作は制作者たちの言葉によれば「新感覚のアトラクションムービー」である。喩えて言うなら、遊園地のジェットコースターのスリルとお化け屋敷の恐怖を掛け合わせたような趣向の斬新な作品だ。
『ゴジラ』や『グエムル』、『キングコング』など都会に出現した怪獣を主役にしたパニック映画を、ホラー作品『ブレアウィッチプロジェクト』や『ノロイ』のようなハンディカム撮影による一人称の擬似ドキュメントタッチで描き出す。こうした試みは本邦初めてであり、1億ドルを超える大ヒットはこのアイデアが見事な成功を収めたことを物語る。
何よりも特筆すべきは、迫力に満ちた音響効果と、臨場感溢れる手持ちカメラの映像と最新のVFXの巧みな融合である。それによって、巨大な「何か」の存在がどこまでもリアルになって、観客に激しい恐怖を呼び起こす。また、「手持ちカメラ」という制約のために、化け物の全容が露わになるのは、ヘリで主人公たちが空から脱出する終盤だけである。一向に正体が判明しないことが、観る者の緊張感を高いまま最後まで保ち続ける。そしていよいよ姿を見た際に我々が受ける衝撃を、そのおぞましい造形も相まって絶大なものとするのだ。
あるいは、化け物から産み落とされた小さな怪物たちが真っ暗なトンネルの中で主人公たちに襲い掛かるシーンもあったが、それは『バイオハザード』を彷彿とさせ作品を一層恐ろしいものへと仕上げた。
「大きな化け物」と「小さな怪物」の2つを設定することによって、「もうどこにも安全な逃げ場はないのだ」と観る者を絶望的な心境にさせる。そして、主人公たちがドアを開けるたびに「奴らが来るのでは」とひどく不安がらせるのである。
ただ、このように独創性に富んだ映画ではあるけれども、あえて苦言を呈するとすれば本編85分という長さにも関わらず、冒頭のパーティーの場面が長すぎてテンポが悪くなってしまっていたこと、映像の手振れが激しすぎて気持ち悪くなってしまったことを指摘しておきたい。
しかし、それでもやはり本作には太鼓判を押したいと思う。映画館の大スクリーンでこそ、一見の価値がある。映像は無論のこと、音響をこそぜひ体感してほしい。
「化け物」がNYを進んでいく時の「ズシリ、ズシリ」という身震いするような地響き、軍隊が機関銃や大砲を使って「化け物」と戦う際の激しい発砲音、事態を全く飲み込めないまま一心不乱に逃げ惑う人々が上げる凄まじいばかりの喧騒、ビルや橋が破壊される折に生じるけたたましい轟音…「HAKAISYA」の真髄はこうした「音」の中に間違いなく存在するといえる。
マンネリ化とネタ切れの感が久しいハリウッドにおいて本作はエポックメイキングとなる快心の一作であった。
映画において「発想」がいかに大切かということを改めて思い知らされた。了
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